タイトル!これじゃまじめなブログだという誤解を与えちゃう!
至ってまじめなブログなんだけどなぁ^^ でもOK、じゃあ言い直そう。
では改めまして本日のタイトルは「英訳するときにいや、それ2つの意味で解釈できるっしょ、というときは困っちゃうよね」にしよう!
中間ないのかよ!
ということで今回は「2つの意味で解釈できる原文を英訳するときの注意点」というテーマでお送りしたいと思います。
そこで登場してもらう ambiguous(曖昧な、いろいろ解釈できる)な例文がこちら。
「投与中止に至った有害事象は報告されなかった」
まずはお断りから。
これは治験総括報告書(Clinical Study Report: CSR)と呼ばれる文書などで使われる表現でちょっと専門的で英訳の話の題材としては適してないとは思うのですが、この文でこの記事を書こうと思ったものですから大目に見ていただけると助かります^^
ではここから本題に入ります。「投与中止に至った有害事象は報告されなかった」は次の2つの意味に解釈可能です。
1. 投与中止に至った有害事象は発現しなかったので報告されていない
2. 投与中止に至った有害事象が発現したが報告されていない(隠ぺい?された)
CSRでは当然前者の意味で書かれていて読み手も何も意識しなくてもそのように読みますが、この文が2つの意味で解釈可能なことは確かです。
これを英語にするわけですが、”前から訳す”と次の流れになります。
1. 「投与中止に至った有害事象」という定型文句を訳す
2. 「~は報告されなかった」を足して完成!
ではやってみます。
1.「投与中止に至った有害事象」という定型文句を訳す
この訳としては adverse events that led to treatment discontinuation というのが定番です。
2. 「~は報告されなかった」を足して完成!
こちらは were not reported ですから2つを足すと、
Adverse events that led to treatment discontinuation were not reported.
となります。
はい、完成。
ではないんだな、これが。
この英文にも Ambiguity 問題があります。しかも日本語よりも2番の意味、すなわち「発現したのに報告されなかった」のニュアンスが強まった感さえあります。その原因は that led to treatment discontinuation の部分。
ちょっと話は逸れますが数学に行列ってあったのを覚えていらっしゃるでしょうか?行列の問題が出題されたとしてもちろん僕は解けません(キッパリ^^)。ですがなぜか行列にまつわるあることだけは覚えています。行列Aに逆行列が存在するとき記号としてはA-1と表記するのですが「行列Aに逆行列が存在しないときA-1と表記してはならない。だって存在しないんだもの」というのがそれです。
話を戻して that led to treatment discontinuation の部分ですが、そもそも有害事象が発現していないのに投与中止に至ろうはずもありません。つまり何が言いたいかというと that led to treatment discontinuation があるために”有害事象が発現した”ことが暗に示されているような感じがしてしまうのです (あたかもA-1と書くとAの逆行列が存在していることが前提になるように)。
そこで Adverse events that ~と”ある”ように書いているからいけないのだといういうことで次に「ない」を強調するため No から始めてみます。
No adverse events that led to treatment discontinuation were reported.
うん、変わらない?
そうなんだよね~。
結局 No から始めても that led to treatment discontinuation があることで”発現したことが前提”になってしまいます。
これまでは日本語に沿って訳したために「ある」ことが前提になってしまうのでした。だったら「ない」ことを前提に書けばよいわけです。そこで There were no ~の登場です。これなら「なかった」という前提で話を始めることができます。
There were no adverse events that led to treatment discontinuation.
「報告」はいずこへ?
もうなくてもよくない?
とはいうものの、原文にあるんだから reported を入れてみましょうと。ではどこに入れればいいのかということですが、入れるとすれば no と adverse events の間です。
There were no reported adverse events that led to treatment discontinuation.
これどう感じますでしょうか?考えすぎかもしれませんが、僕には「報告された有害事象のうちで投与中止に至ったものはなかった(報告されなかったものは知らないけど)」という意味にも取れる Ambiguity 問題再度浮上!っていう気がしてしまうんですよね。
そのため reported は省きたいのですが、そうすると「原文に沿ってない」というご指摘を受けそうでいつも悩んでしまいます。よくよく考えてみれば「そもそも原文が Ambiguous」で、それをそのまま訳したらそりゃ英文も Ambiguous になりますよねと。
そこで逆転の一手としてこんなのも考えてみました。
No adverse events were reported to have led to treatment discontinuation.
これを直訳すると「投与中止に至ったと報告された有害事象はなかった」となりますが、本来原文はこうあるべきじゃね?って思ったり、思わなかったり。この文には Ambiguity はありません。英文にもありません。
でもググったら出てこないんですよね。やっぱり adverse events that led to treatment discontinuation を塊として使わなくてはいけないのかなぁ....
というわけでこのような「業界独特の言い回し」というのをとりあえず置いておけば、最後の書き方なら Ambiguity 問題をクリアして英文を書くことが可能です。たとえば「試験に落ちた生徒は報告されなかった」は、
No students were reported to have failed the exam.
とすることがきます。
そもそも論として日本語がやっぱり変で普通は「報告では試験に落ちた生徒はいなかった」ってするでしょうというのは置いておいて。
で、結局この記事で言いたいことは何なのよ?
それはね...
この記事のお題としたものは業界特有の言い回しでいわゆる”定訳”が存在するわけですが、普通はそんな縛りはありません。そのような場合に2つの意味に取れる文を英訳するときは「きっとこっちの意味だろうなと」書き手の意図を汲んで訳すことが大事じゃないかなと。
とはいえ他人の書いた文を訳すということは普通あまりないんじゃないかなと思います。むしろ日本語で考えて英語にするという「日本語も英語も書き手は自分」というパターンの方が圧倒的に多いと思います。そんな場合には今回の記事の内容はスパッと忘れて書きやすいように書けばOK。「報告」を入れたら意味が曖昧になるんだったら省略しちゃいましょう。
さらにいえば英語を書くときに日本語で考える必然性は何もなく、英語を書きたいんだったら日本語を訳すのではなく英語で書けばいいじゃね、というのが最終的な答えなんじゃないのかなぁと。
もはや趣旨変わってない?
あれま^^
あとがき
今回は題材がちょっとマニアックになってしまいました。もはや誰が興味あるのよというような内容だったのですが、このあとがきを読んでくださっているということは最後まで読んでくださっということすか?!そんな貴方はまさか仏様か何か?!
最後まで読んでくれてありがとう!!また,遊びに来てね♡