今回は翻訳現場でいつも迷う a と the の使い分けについて取り上げようと思います。「無い袖を振る」ということでは前にも「コラム」として記事を書いていますが(その記事はこちら)、今回は特定場面での a と the の使い分けの話としてカテゴリーも「冠詞」としました。
目次
この記事を書こうと思ったきっかけ
医薬翻訳の仕事をしているとたまにこういう文に出くわします。
「男性被験者の女性パートナーが妊娠した場合」
これを何気に、
If the female partner of a male subject becomes pregnant
としてハッと思ったのです。「本当にこれで良いのだろうか」と。
う~ん、話が見えてこないなぁ。具体的にどういうこと?
それはね...
a と the で何が違うのか
何が引っかかったかというと、なぜ a ではなく the なのかという点にあります。
a female partner of a male subject
と
the female partner of a male subject
では何が違うのか。
これを探るために a と the について基本的なことをおさらいしておきましょう。
一方の the はというと、
うん、a と the はそうだとして a female partner と the female partner は?
the の「すべて」というのがカギなんだ。
つまり、the female partner of a male subject といったときは female partner は単数でかつ the のカテゴリーに入っているため「この一人がすべて」ということになります。言い換えると the female partner と表現するときは「男性被験者の女性パートナーは複数ではなく1人であるはずだ」ということが根底にあるということになります。
逆に a female partner of a male subject は「女性パートナーが複数いるうちの1人」を指すことになり女性パートナーが複数いる(かもしれない)ことを前提にしていることになります。
つまり、"a"にすると浮気者を想定していると?
まあ、そういうことになるかな(あるいは一夫多妻制かな)。
a と the の違いがわかるもう一つの例
別の記事でもご紹介したことがあるのですがもう一つの例としては「月(moon)」が挙げられます。
ウサギがお餅をついているあの?
そう、あのお月様。
moon は「衛星」という意味の単語ですが、地球の衛星はあのお月様だけということで「特定」を表す the のカテゴリーに入るため the moon =「月」となります。
一方、木星には80個もの衛星があるそうですからたとえば「エウロパ(Europa)は木星の衛星です」を英語にすると、
Europa is a moon of Jupiter.
と、moon は(複数ある中の)不特定の一つを表す a のカテゴリーに入るということになります。
無い袖を振れ
「男性被験者の女性パートナー」という言葉には女性パートナーの単複の情報は含まれていません。自分で考えて英語を書く、あるいは話すときであれば自分の中の想定に合わせて a か the か(あるいは複数か)を決めれば良いわけですが、日本語を訳すとなると日本語の文にはそもそも英語にするのに必要な情報が含まれていないということがしばしばあります。
そういうときは「えいやっ」で訳してしまうしかないのですが、それでも a としたときと the としたときの違いを知って訳すのとそうでないのでは全然違うのではないかと思います。
あとがき
この「女性パートナー a か the か問題」に関してはthe にしておけば無難というのが答えだと思うのですが、a と the の使い分けについて説明するのに分かりやすい題材だということで取り上げてみました。
最後まで読んでくれてありがとう!!また,遊びに来てね♡